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ポエティックな柄が織られた布の表面、緑の芝生を模した糸にハサミの刃を入れる。「切っちゃって大丈夫?」。戸惑いながら刃を進めると、その下に現れたのは茶色の大地と蝶やトカゲのかわいい姿。
誰もが思わず笑顔になってしまう二重構造のテキスタイル「SNIP SNAP」を生み出したのは氷室友里さん。今注目のデザイナーです。
「この『SHIBA』のデザインは、祖母の家の庭で見た風景がヒントになっています。柄の芝刈り機も実際に自宅にあったもの。実際に見たり体験したものをモチーフにすることが多いですね」
デザイナーの父親の影響もあり、幼いころからデザインに興味があった氷室さん。中でも日常に密着した、暮らしが楽しくなるプロダクトを手がけたいと思っていたそう。身近な風景をモチーフにすることが多いのもうなずけます。
氷室さんのテキスタイルは複数の柄を重ねたり、表裏でまったく異なる絵柄にしたりと、複雑な構造が特徴。これらはジャカード織りでつくられています。
「留学先のフィンランドでジャカード織りの技法を学びました。経糸と緯糸の組み合わせでさまざまな柄が表現でき、この経験でテキスタイルを構造から考えるようになったんです」。感覚的に絵を描くのではなく、柄を表現するために構造から理論的に考案する。プロダクトデザインにも通じる考え方で、ほかにはないテキスタイルを発表しています。
現在、自身のブランドで新たなデザインを行うかたわら、企業とのコラボレーションや商品開発にも熱心にかかわっています。今挑戦しているのはカーテン。「昼夜で見え方が変わるカーテン用のテキスタイルをつくりたいのですが、なかなか難しくて。いつか実現させたいです」。窓辺に氷室さんがデザインしたカーテンを掛けたら、楽しく幸せな空間になること間違いなし。実現する日が楽しみです。
SNIP SNAPの「SATOYAMA」は、氷室さんが訪れた岡山県西粟倉村の里山がイメージソース。山に暮らす動物や人々、木々が描かれたテキスタイル(左写真)の緑の糸をカットすると、魚が泳ぐ川や湖が姿を現します(右写真)。
「BLOOM」コレクションの「DALIA」は、一枚の布の表面に大輪のダリアの花、裏面に茎と葉が描かれたブランケット。写真のように一部を折り返して壁に飾っても素敵。
2013年多摩美術大学大学院テキスタイルデザイン領域修了。在学中にフィンランド・アアルト大学へ留学し、日本とフィンランドでテキスタイルの技術を学ぶ。会社勤務を経て16年に独立、テキスタイルブランドYURI HIMUROを立ち上げる。18年、株式会社HIMURO DESIGN STUDIO設立。 http://www.h-m-r.net/
La Finestra Vol.21より転載