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インテリアをつくるひと File.02 辰野 しずか

デザインを提供するだけではなく
世に出していくための提案も私の仕事

日本ものづくりに寄り添うプロダクトデザイナーの新しい姿

バブル景気の1980~90年頃に最盛期を迎えた日本の伝統的工芸品。その後生産額も工房数も従事者数も減少し、現在は当時の5分の1の水準と厳しい状況が続いています。
そんな状況下で今注目されているのがプロダクトデザイナーの辰野しずかさん。各地の工芸品のつくり手たちと協同し、魅力的な製品の数々を生み出しています。
種類は食器や生活用品、家具、ファッション小物などさまざま。どれも各工芸の特徴を生かしつつ今の暮らしに合ったデザインが特徴です。清涼な空気が通り抜けるような清々しさに満ちています。
「イギリスの大学への進学を機に日本を離れてみて、改めて日本のデザインの良さに気づいたんです。それは『きちんとしている』こと。なかでも工芸の職人さんは作業が細やか。工芸は手仕事ならではの味わいや、地域の自然と密接に結びついているのも魅力です」
帰国後、程なく独立。工芸との付き合いが始まります。最初はデザインのみに注力した結果、製品が売れずに失敗した苦い経験も。
「デザインだけじゃ駄目なんだと気がつきました。声を掛けてくれる会社の多くが、社の存続が危ぶまれるほどの切実な状況にあります。私の役割はその課題を解決すること。彼らの良さを生かしたデザインを考えるだけでなく、どうやって世の中にインパクトを与えるかを考えないといけない。だから売るためのリリース方法や、メディアやSNSを活用したPRなども助言させてもらっています」
製品のデザインより前段階の、ブランディングや商品企画から行う仕事がほとんど。時には宣伝写真をディレクションしたりグラフィックを考案することもあるそう。
ものの本質を捉えたデザインを生み出すだけでなく、世に出していくための多角的な提案もする。そんな辰野さんの試みに、これまでの枠を超えた新しいデザイナー像を見た気がします。


材料からプロダクトまで
地に足の着いたものづくり

Photo by Shin Inaba

材料からプロダクトまで
地に足の着いたものづくり

長野県松本市の民芸品、松本箒の端材を使ってつくった靴べら「hoki_hera(ホウキヘラ)」。工房の目の前に原料であるホウキモロコシの畑があり、工房の業務の7割は畑仕事。材料から製品まで一括してつくる体制に感銘を受けたそう。

自然の光と水の美を
工芸を通して表現する

Photo by Masaki Ogawa

自然の光と水の美を
工芸を通して表現する

辰野さんが全プロダクトデザインを担う工芸ブランド「KORAI(コライ)」。特定の工芸ではなく、各地の工芸の職人へ協力を依頼して新しい製品をつくるという逆のアプローチで日本の工芸を支えます。2020年の新作は「水の器(L)」。手吹きガラスの器に水を張ると陽の光を受けた波紋が地面に映り込み、自然のゆらぎや移ろいを感じられる贅沢な時間を演出します。

Photo by Masaaki Inoue

有田焼の窯元と一緒に生み出した「mg&gk(もぐとごく)」では日常の使用シーンを想定した器をデザイン。有田焼特有の青い顔料、呉須(ごす)の涼やかな柄に金のアクセントが効いています。プロダクトのみならず、ブランディングやグラフィックデザインも担当。

Photo by Masaaki Inoue

薩摩切子の工房とのコラボブランド「grad. (グラッド)」から「grad. ice(グラッド アイス)」。異なる色のガラスを何層も重ねてカットする薩摩切子の技法をアピールすべく生まれたデザイン。豊かなグラデーション、現代の食卓に合わせやすいすっきりとモダンな形が魅力。

辰野 しずか (たつの・しずか)

イギリスのキングストン大学プロダクト&家具科を主席で卒業後、デザイン事務所勤務を経て2011年に独立。17年Shizuka Tatsuno Studio設立。家具、生活用品等のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、グラフィックデザインなど業務は多岐にわたる。雑誌『エル・デコ』にて、日本のものづくりの現場を訪ねる「DESIGN EYES」連載中
http://www.shizukatatsuno.com/

La Finestra Vol.22より転載

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