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インテリアをつくるひと File.6 柳本 暦

孤独や心の痛みをありのまま
受け入れて
優しく元気づける
作品を作るアーティスト

Photo by Hisai Kobayashi

ひと目で「かわいい!」と声を上げてしまいそうな、愛らしく楽しげな食器やオブジェ。でもどこかに陰が潜んでいるような……。陶芸作家、柳本暦さんの作品を初めて見たときに受けた印象です。
骨董商を営む父親が建てたという、南欧の田舎家のような穏やかな自宅の離れで柳本さんと話をしていると、その理由がわかってきました。作家もののアクセサリーを身に着けた金髪の女性は、その一見活動的な外見に対して思慮深く控えめな言動。ひとつずつ確かめるように言葉を紡ぎます。
「ジュエリーの専門学校で、最初は鉄を使った作品を手がけていました。でも私のものづくりの姿勢や性格をよく知る担任の先生が、私には陶芸が向いているんじゃないかと勧めてくれて。やってみると、考えながら手を動かしたり絵を描いたりといった自由さが自分に合っていたみたいで、すっかり陶芸の虜になってしまいました」
最初は小さなアクセサリーをつくっていた柳本さん。次第にもっと大きなものをつくりたくなり、それならいつも部屋に飾れるものにしようと現在の作品に至りました。ただ、つくるものの種類が変わっても共通するテーマがあります。それは「お守り」。印象的だったのがこんな言葉です。
「寂しいときも楽しいときも、どんな気持ちも肯定してくれるようなものをつくりたいんです」
芸術家の両親の元に生まれ、幼い頃からアートが身近にあった柳本さん。フランチェスコ・クレメンテやフリーダ・カーロ、クリスチャン・ボルタンスキー、そしてゴッホなど「孤独や心の痛みを作品に出していいんだと、精神的に勇気をもらった」というアーティストたちの作品のように毒気やダークさが直接表現されているわけではありません。でも、寂しさに寄り添いながら優しく元気づけてくれるような空気が、柳本さんの作品には漂っているのです。


Photo by Hisai Kobayashi

大切なお守りのように
そっと寄り添ってくれる

「女性の体をモチーフにするのが好き」という柳本さんの作品には、さまざまな姿の女性や体のパーツが登場します。どれも意志が感じられる表情が魅力的。写真の中段右にある白い陶器はおっぱい(!)を模した人気のミニ植木鉢。男性人気も高いのだとか。コロナ禍前は毎月行っていた個展は現在お休み中。「早く再開してお客さんと直接触れ合いたいです」と柳本さん。


Photo by Hisai Kobayashi

経験を積んで再挑戦の結果
生まれた新しい表現

今年から新たに化粧土を使った作品にも取り組んでいます。プレートやカップなどに成形した土台に顔料入りの化粧土で絵柄を描き、乾燥させて素焼きするという技法。実は陶芸を始めた頃に一度トライしたものの、素早さを必要とすることもあって続けるのを断念したそう。7年の経験で素材の扱いにも慣れ、思うような表現ができるように。焼成時に生まれる独特のにじみが特徴的です。


Photo by Hisai Kobayashi

どこの国のものともつかない
不思議さのある作品

カラフルで楽しげな壁掛けオブジェは、天使、十字架、手や目など、柳本さんが好きだというメキシコをはじめ海外のお守りのモチーフを自身で再解釈したもの。お守りは柳本作品の大切なテーマのひとつです。なかには“悪”というにはあまりにもかわいらしい姿の赤い悪魔も。こうしたちょっと不思議な架空の動物モチーフも得意とするところ。

柳本 暦 (やなぎもと・こよみ)

東京都出身。アクセサリー制作を学ぶなかで陶芸に出会い、現在の道に。「ストーリーがあり、毎日楽しく使えるアイテム」をコンセプトに日々制作に励む。個展や作品の情報については、本人のインスタグラム(@Koyomi_y)をチェック。

La Finestra Vol.26より転載

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